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2026年6月2日

【和田誠】国が「姥捨て山」を合法化する日 介護保険法改正案の恐るべき正体

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《 認知症の人と家族の会・和田誠代表理事 》

今、私たちの老後の安心を根本から崩壊させかねない重大な法案が、国会でひっそりと審議されています。【和田誠】

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それは、今年4月に閣議決定され、5月に衆議院を通過した「社会福祉法等の一部を改正する法律案」です。この中には、介護保険法の一部改正案も含まれています。


政府は「地域の実情に応じた柔軟な制度設計」といった耳当たりの良い言葉を並べていますが、その実態は、国が地方の介護保障を事実上「切り捨てる」ための撤退戦に他なりません。


最大の焦点は、高齢者らの人口減少が著しい地域を「特定地域」として指定し、介護サービスを提供する職員の人員配置基準を緩める特例措置です。


さらに恐ろしいのは、訪問介護やデイサービス、ショートステイといった、介護が必要な方々の命綱とも言える在宅サービスを、法的に保障された「保険給付」の枠組みから外し、市町村の裁量による事業(特定地域居宅サービス等事業)へと移行させることができる仕組みが創設されることです。


◆「全国どこでも同じ介護」の原則が壊れる危険性


これまで日本の介護保険制度は、全国どこに住んでいても、要介護状態になれば等しくサービスを受けられることを大原則としてきました。


しかし、この特例が導入されれば、「特定地域」に住む高齢者は、人材不足などを理由に手薄になったサービスしか受けられなくなってしまう懸念が大きいと言わざるを得ません。しかも、市町村の事業へ移行すれば、自治体の予算の都合などでサービスの利用を制限される事態が、合法的に起きてしまう恐れもあるのです。これは、明確な「社会保険の原則の破壊」と言えます。


私は昨年来、厚生労働省の審議会(社会保障審議会・介護保険部会)でこの問題について再三にわたり反対の意見を述べてきました。


しかし、国は介護サービス供給網の「完全崩壊を防ぐため」という口実のもと、今回の改正案の方向に舵を切ってしまったのです。人員配置基準をはじめとする介護サービスの提供ルールを緩和することは、介護職員の待遇を改善して働き手を増やす努力を諦めることに他なりません。


私たち「認知症の人と家族の会」は5月12日、全ての国会議員に向けて緊急の要望書を送付しました


「地域の65歳以上の人口が減っても、介護を必要とする75歳以上の人口は2050年まで減らない。介護職員を減らす制度をつくるのではなく、必要な職員を確保するための見直しを行うべきだ」


要望書ではこう強く訴えました。


介護を必要とする人が減っていないのに人員配置基準だけを緩めれば、残されたわずかな介護職員に過酷な労働がのしかかり、ケアの質は致命的に低下してしまうでしょう。介護職員の労働組合や他の関係団体も、こうした基準緩和が「孤立死」「介護殺人」「高齢者虐待」「介護離職」といった深刻な社会問題の引き金になりかねないと強く警鐘を鳴らしています。

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◆ 残酷な福祉の「二重構造」


国会審議においても、今回の改正案をめぐって「介護従事者を大切にしていない」との強い批判が噴出しました。


政府は、2040年に向けた働き手世代の激減を理由に、こうした劇薬を正当化しようとしています。確かに、地方の介護人材の不足は絶望的な状況です。しかし、低賃金と過重労働という介護現場の構造的な問題から目を背け、抜本的な処遇改善を怠ったまま「人がいないから基準を下げる」という短絡的な解決策に逃げるのは、あまりにも無責任ではないでしょうか。


この改正案が成立すれば、都市部では豊富なサービスが受けられる一方で、過疎地では高齢者が見捨てられるという、残酷な福祉の「二重構造」が固定化されてしまいます。


私たちは皆、いずれ老い、誰かの助けを必要とする日が来ます。「特定地域」に住んでいるという理由だけで、生きるために不可欠な介護サービスを奪われるような社会を、私たちは本当に受け入れてよいのでしょうか。


「介護保険はあるのにサービスは受けられない」という状態が法的に容認される未来は、すぐそこまで迫っています。老いることが罰となるような社会を防ぐため、私たち国民一人ひとりがこの「改悪」の真実に目を向け、強い危機感を持って声を上げなければならない時が来ているのです。


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