【天野尊明】来年度の報酬改定は転換点 介護経営そのものを問い直す局面に
9月30日の審議会(社会保障審議会・介護給付費分科会)で、来年度の介護報酬改定に向けた「基本的な視点(案)」が示されました。【天野尊明】
この中では、これまでの議論や関係団体との意見交換などをもとに、
● 物価・賃金の上昇などへの対応と処遇改善
● 人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築
● 地域包括ケアシステムの深化
● 職場環境の改善と生産性の向上を通じたサービスの質の向上・介護人材の確保
● 制度の安定性・持続可能性の確保
の5点が整理されています。
なかでも、介護事業者の経営という観点から注目したいのは、以下の趣旨が改めて明記されたことです。
「物価や賃金の上昇などを介護報酬に適切に反映し、介護サービス事業者の経営の安定を図るとともに、他職種と遜色のない処遇改善を実現し、人材の定着・離職を防止する環境を整備していく」
これは当然の問題意識と言えます。介護サービスは公定価格であり、一般企業のように原材料費や人件費の上昇を自由に価格転嫁することができません。その一方で、介護事業者が負担するコストは市場価格に左右されます。
例えば、今年度の最低賃金は全国平均で1177円となり、前年度から56円上昇します。
介護事業者にとって最低賃金の引き上げは、それに近い水準で働く職員だけの問題ではありません。最低賃金が上昇すれば、経験のある職員、介護福祉士、リーダーや管理職との賃金差をどう設定するかという問題が生じ、賃金表全体の見直しにもつながります。
ある社会福祉法人の理事長によれば、その対応だけで約2千万円のコスト増になるということでした。他産業との人材獲得競争が続いていることを考えれば、人件費の上昇の必要性は今後も高まるばかりでしょう。
さらに、食材料費、光熱水費、車両費、建築・修繕費、委託費などの上昇も続いています。前述とは別の介護事業者の方からは、「昨年と比べて電気料金が倍増した」という声を聞きました。
これまでの報酬改定で議論されてきたような、過去の実績を中心としたコストの把握だけでは、急速に変化する経営環境に永遠に追いつかないのではないでしょうか。
最低賃金の上昇などによって人件費は増える。物価高によって事業の運営費も増える。このほか、地域区分の変更によって介護報酬が下がる地域が出てくる可能性も否定できません。
いわば、「コストが膨らむ一方で収入は頭打ち、または下がる」という未来が来ることを覚悟しなければいけません。果たして、こうした状況を乗り越えるだけの財源を、介護事業者はどこから捻出することができるのでしょうか?
事業者はもちろんですが、政治や行政も、「ここ2~3年で介護経営は大きく局面が変わったのだ」と受け止めなければならないでしょう。「基本的な視点(案)」に書いたように、「物価や賃金の上昇などを介護報酬に適切に反映」することが、絶対に不可欠であることは言うまでもありません。
令和6年度の報酬改定では、歴史上初めて「予測」の概念が組み込まれ、「令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップ」を実現するための財源が措置されました。それが十分だったか否かはともかく、来年度の報酬改定でもそうした「将来への備え」を措置し、バッファーを持たせることを通じて、経営の安定を図ることが強く求められます。
しかし、介護事業者の立場から考えれば、「次の改定で介護報酬がどれだけ上がるか」だけを見ているわけにはいきません。
今回示された「基本的な視点(案)」は、人口減少、人材確保、生産性向上、地域の実情に応じたサービス提供体制、そして制度の持続可能性を、それぞれ別の課題としてではなく、一体として捉えているように見えます。
これからの介護事業者に求められるのは、今後どう制度が変わっていくのかを前提として、賃金・物価の動向、地域の人口動態や人材市場とサービス需要、そして自法人の経営データや戦略などを組み合わせ、まずは5年後、10年後に、果たして事業が持続可能なのかどうか、という問いを突き詰め、答えを出すことなのかもしれません。
来年度の報酬改定は、介護事業経営のあり方そのものを問い直すための、大きな転換点になるのではないでしょうか。









